「空気」という暴力 〜 会社を陰から支配する見えない力学 〜

「社長なのに、なぜか思うように会社が動かせない」

戦略を考え、方針を示し、具体的なアクションを伝えた。
会議では「いいですね」と言われた。

それなのに、何も変わっていない。変わりそうな気配もない。

社長の指示が実行されない原因は、いくつか考えられます。
スキルの問題、リソースの問題、優先度の問題などなど…

しかし今回、私が取り上げたいのは
多くの経営者が見落としている、ある重要な原因です。

それが、会社を支配している「空気」です。
空気へ意識を向けると、今まで見えてこなかったことが見えてきます。

 
※ 今回のブログは以下の書籍を参考にしています ※
・山本 七平『空気の研究』1983 文藝春秋
・戸部 良一、寺本 義也、鎌田 伸一、杉之尾 孝生、村井 友秀、野中 郁次郎
 『失敗の本質-日本軍の組織論的研究』1984 中央公論新社
・ジョン・P. コッター著 梅津 祐良 (翻訳)『企業変革力』2002 日経BP
・冷泉 彰彦『「関係の空気」 「場の空気」』2006 講談社
・マイケル・A・ロベルト(著) スカイライトコンサルティング (翻訳)
 『決断の本質 プロセス志向の意思決定マネジメント』2006 英治出版
・大田嘉仁『JALの奇跡 稲盛和夫の善き思いがもたらしたもの』2018 致知出版社
・古賀 史健『集団浅慮 優秀だった男たちはなぜ道を誤るのか?』2025 ダイヤモンド社

目次

空気の正体

「〇〇さんは空気が読めない」

この言葉を、私たちは日常的に使っています。
しかし「空気が読めない」とは、いったい何を指しているのでしょうか?

「空気」が実際のところ何を指しているのか・・・
私たちは、本当はあまり分かっていないのかもしれません。

私が考えるに、
「空気」とは、暗黙の了解です。


誰も明文化していないのに、その場にいる全員が「こうだよね」と
何となく理解している前提。そして決して破ってはいけないもの。

それが、「空気」です。

芸人の世界で言えば

「今はボケが続く流れか、それともツッコむ場面か」
という暗黙の了解があります。

この暗黙の了解を外した瞬間「空気読めよ!」と言われるわけです。
台本があるわけでも、共通のルールブックがあるわけでもないのに、です。

友人同士で言えば

真剣な相談中に冗談を言う。
みんなが盛り上がっているときに冷めた正論を言う。

法律違反でも、明文化されたルール違反でもない。

ただ「こういう場では、こう振る舞うのが普通」という
根拠不明の暗黙の了解に 抵触してしまっただけです。

ただ「暗黙の了解」に抵触し続けると
居心地が悪くなって、誰からも誘われなくなり、友人がいない孤独に陥っていきます。

だから人は、空気に従って動くのです。

空気という暴力が生んだ失敗

かなり俗世的な事例を述べましたが、「空気」を甘く見てはいけません。

歴史を振り返ると、
空気は取り返しのつかない失敗を生んできたことが分かります。

一つ目は、日本の敗戦です。

組織的な敗戦論を語った『失敗の本質』と『空気の研究』には、こう記されています。 
 

この「空気」はノモンハンから沖縄までの
主要な作戦の策定、準備、実施の各段階で随所に顔を出している。
空気が支配する場所では、あらゆる議論は最後には空気によって決定される。

戸部 良一、寺本 義也、鎌田 伸一、杉之尾 孝生、村井 友秀、野中 郁次郎
「失敗の本質-日本軍の組織論的研究」2024 中央公論新社

  

それは非常に強固でほぼ絶対的な支配力をもつ「判断の基準」であり、
それに抵抗する者を異端として、
「抗空気罪」で社会的に葬るほどの力を持つ超能力であることは明らかである。

山本 七平「空気の研究」2018 文藝春秋


要は「空気」によって合理的な判断能力を発揮することができなかった
それによって重要な意思決定を間違えてしまい、悲惨な敗戦に繋がった、ということです。

日本の敗戦については専門的内容になるため、深く言及せず次の話に行きたいと思います。

実際の企業の失敗事例は、リーダーシップ・企業変革論の大家
「ジョン・P・コッター」の書籍で見ることができます。

コッターは著書「企業変革力」の一節で、
ある航空会社で起こった企業変革の失敗要因として
「空気」と解釈できる一文を残しています。
 

この企業全体で共有されていた主要な価値観は、
「自らの技術を開発することですべての問題は解決する」というものであった。
企業文化のほかの要素と同様、この考え方も正式に宣言され、
成文化されていたわけではなかった

ジョン・P. コッター著 梅津 祐良 (翻訳)『企業変革力』2002 日経BP


「成文化されていないが、正式に宣言されていた価値観」
コッターはこう表現しています。

これは、「空気 = 暗黙の了解」の性質と見事に一致しています

冒頭でも述べた通り、空気とは
誰も明文化していないのに、その場にいる全員が「こうだよね」と
何となく理解している前提であり、そして決して破ってはいけないものです。

コッターも日本で言う「空気」のような存在に言及していたのです。

また興味深いことに、コッターは続けてこうも述べています。
 

正面切ってこの価値観について聞かれると、
つねにその価値観が正しいものとは認めていなかった。
しかしマネジャーたちと何杯かのビールを飲んだあと、彼らの発言を耳にを傾けると
「わが社独自の技術を開発すればすべての問題は解決する」
といった発言を聞くことが多かった

ジョン・P. コッター著 梅津 祐良 (翻訳)『企業変革力』2002 日経BP


戦略・方針・アクションを正面切って示す公の場では、「いいですね」と言われる。
一方でその裏では、「どうせ変わらない」と発言がなされている。

こんな風景と重なって見えます。

このように、空気はインフォーマルな場所で醸成されることも非常に多い
社長・幹部がいない飲み会では、
このような会話が繰り広げられている可能性もあるのです。

また本旨からは少し逸れますが、「空気」に勝利したと見て取れる事例もあります。
故稲盛さんが主導したJALの再建です。

稲盛さんのJAL変革ストーリーが記された「JALの奇跡」という書籍には
「稲盛会長の就任挨拶に漂う冷たい空気」という章があります。

その章は、こんな一文で締めくくられています。
 

当然、みんなが稲盛さんを否定していたわけではない。
内心では、「あの稲盛さんに来てもらった」と喜んでいた社員も多くいたと思う。
しかし、それを口で言えないような雰囲気が当初あったのは間違いない

大田嘉仁『JALの奇跡 (稲盛和夫の善き思いがもたらしたもの)』2018 致知出版社


周知のとおり稲盛さんは、この空気を打破し、見事JALの再建を果たしました。
本旨から外れるため、JAL再建に関しては別の書籍に譲ろうと思います。

ただ重要な点は、今もどこかの会社で、社長の実行・変革を邪魔する「空気」が
作られているかもしれない、ということなのです。

中小ベンチャー企業の経営における「空気」

話を冒頭に戻します。

戦略を考え、方針を示し、具体的なアクションを伝えた。
会議では「いいですね」と言われた。 それなのに、現場は何も変わっていない。

このとき、現場のメンバーの間には
どんな「空気 = 暗黙の了解」が漂っているでしょうか?


「社長は現場が分かっていないから、聞かなくていいや」
「どうせ今回も上手くいかないんだから、変わるだけ無駄だよね」
「変わったところで、別に何も良くはならない」

こういう暗黙の了解が、メンバーの間に成立しているのかもしれません。
そして実際に、社長の方針に従わなくても、特段困ることはない。

社員の行動を決めるのは、経営者でも、マネージャーでも、本人でもありません。
「空気」こそが、我々の行動を決めています。

空気とは、MVVのような明文化されたものとは異なります。

もっとメンバー間に横たわる、ときには社長からも見えない
「暗黙の了解」そのものなのです。

経営者には見えない「空気」がある

経営者・幹部が、社内の空気に大きな影響を与えていることは間違いありません。

ただ、賢明な経営者であれば、そのことは既に認識していると思います。
「自分の言動が会社の空気を作っている」という感覚は、
どの経営者もなんとなく持っているものです。

しかし、ここに盲点があります。

会社の空気は、経営者・幹部だけが作っているわけではありません。

社内には、メンバークラスでありながら組織の空気に対して、
大きな影響力を持っている人間
が存在します。

役職でもなく、権限でもなく、
ただ「その人がいるだけで」 場の空気が変わってしまう人間です。

少し、想像してみてください。

経営チームが会議室で渾身の戦略・方針を語っているのと傍ら、
オフィスでは全く別の「判決」が下されているかもしれません。

「社長たち、またどうせ実行もできない戦略作ってるよ」
「どれだけ戦略を考えたところで、どうせ何も変わらないのにね」

誰かがそう呟いた瞬間、周りの数人が苦笑いで頷く。

このたった数秒間で、経営チームが1日かけて作った方針は、無に帰すのです。

こういう人物を、「サイレント・インフルエンサー」 と呼んでいます。
自分の会社のサイレント・インフルエンサーは、誰でしょうか?

サイレント・インフルエンサーとは何者か

サイレント・インフルエンサーとは、
メンバークラスでありながら、社内の空気に大きな影響力を持った人物のことです。

こういった人物には、いくつかの共通した特徴があります。

・ムードメイカーで場の雰囲気を左右する
・妙に頭が切れ、周囲に一目置かれている
・特定の上司ではなく、社員全体からの信頼が厚い
・社内に友人が多く、様々な情報が自然と集まってくる
・カッコいい、かわいい、あるいは誰よりも優しい

これらの特徴を全部持っている必要はありません。
ただこうした性質を一つか二つ持っているだけで、
人はいつの間にか「影響力を持ってしまう」のです。

そしてこれは、良い・悪いの話ではありません。

ただ、彼ら・彼女らが 「なぜやるのか分からない」「意味があると思えない」と感じているとき、その言葉は経営者が思っている以上のスピードと深さで、組織の隅々にまで染み渡っていきます。

しかも、あなたには見えないところで。

では、どうすればいいのか

問題は、サイレント・インフルエンサーが誰なのか、簡単には分からないことです。
従業員数が増えれば増えるほど、特に顕著になります。

加えて空気は、社長の目の届かない場所で作られています。
だから、見える場で作ることが重要なのです。

具体的には、2つのアプローチをお勧めしています。
 
 

① 自社の魅力と課題の言語化ワーク


社員・社長・幹部が一堂に会し 「この会社の魅力は何か」「この会社の課題は何か」を
言語化していくワークです。

重要なのは、経営層が答えを提示するのではなく
メンバー自身が言葉を紡ぎ出すことです。

自分の言葉で語った「課題」は、他人に言わされた「課題」とは全く別物です。
人は、自分が言語化したものに対してこそ、当事者として動こうとします。 

このワークで初めて「現場の空気」が、社長の目に見える形で現れてきます。
 
 

② 「ひどい真実」を洗い出すワーク


「すごい会議」などのアプローチでも用いられる手法です。

組織の中で「みんなが薄々感じているが、誰も口に出さない問題」を
安全な場で言語化するワークショップです。

これをやることで、水面下で空気を作っていたサイレント・インフルエンサーの
本音が可視化されることがあります。

本音が可視化された時点で、空気を変えるプロセスの8割は完了しているようなものです。

では、なぜこの2つの手法によって、空気を変えることができるのか?

それは、空気の正体が「暗黙の了解」だからです。

誰もが薄々感じていながら、誰も口に出さない。
その「言葉にされていない状態」こそが、空気の支配力の源泉なのです。

だから、言語化した瞬間に空気は霧散していきます
「暗黙の了解」は、言葉になった瞬間に、その力を失い始めるのです。

たとえば第二次世界大戦中の参謀会議で
「この会議室には、合理的に考えれば勝ち目のない特攻作戦を
 ”日本人の誇り”という曖昧な理由で決議しようとしている空気がある」

と誰かが発言していたら・・・

魅力と課題/ひどい真実の言語化ワークショップで
「今の会社には、何か戦略を実行しても意味がない・・・みたいな雰囲気があるよね」

と誰かが発言することができたら・・・

その瞬間に、それは「空気 = 暗黙の了解」ではなく
「解決するべき課題」に変わるのです。


そのためこの2つの手法は、サイレント・インフルエンサーを炙り出し
批判するためのものではありません。

 むしろ逆です。

サイレント・インフルエンサーが本音を語れる場をつくることで
その影響力を、組織の前進のエネルギーに変えていくことができるのです。

最後に、総まとめを

空気とは、暗黙の了解です。
そしてその空気こそが、社員の行動を決めています。

社長の指示が実行されないとき、スキルやリソース以前に、
「実行しなくていい空気」が蔓延していないか?


そしてその空気を作っている「サイレント・インフルエンサー」が誰なのか?
考えてみてください。

空気は恐ろしい力を持っています。
しかし裏を返せば、空気ほど頼りになる味方はいません

試しに「最も影響力を持っていそうなあの人」の顔を思い浮かべてみてください。

その人は今、会社をどんな目で見ているでしょうか。
その人の本音を、経営者はどれだけ知っているでしょうか。

その意識を持つだけで、空気との付き合い方は変わり始めます。
見えないところで動く力学を、見える場に引き出す。

それが空気を暴力から味方へと変える、唯一の方法です。
その第一歩を、ぜひ明日から踏み出してください。

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【次回予告】

▼ ブログ・ラインナップ(予定)
【第1弾】カルトの時代 〜我々はいま、没入を求めている〜(←前回!)
【第2弾】「空気」という暴力 〜 会社を陰から支配する見えない力学 〜(←今回!)
【第3弾】社長はいつ"裸の王様"になってしまうのか? ~ 権力の腐敗について ~
【第4弾】KAWAII LAB. から読み解く"かわいい"の再現性
【第5弾】人が"悪"に傾く瞬間
【第6弾】なぜ成功者は皆揃って「運が良い」と言うのか?
【第7弾】人間は、もっと壊れた方がいい

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