「正直M&A」、はじめます ~不幸なM&Aを世の中から減らす~

「あの契約、結ばなきゃよかった」

承継先も身内にいないし、そろそろ会社を信頼できる他社に譲ろうか。そう決めて、ある仲介会社に頼んだ。

「私たちにお任せください。必ずよい譲渡先を見つけます!」
そう言われて、契約書にサイン。

でも、何ヶ月経てども、買い手は見つからない。他社に頼みたくても、契約期間中は動けない決まり。どうすればいいかも分からないまま立往生。

M&Aの世界には、こういう話がたくさんあります。

「正直M&A」は、白潟総研グループ/M&Aイノベーション株式会社による、M&A業界の"言いにくいこと"を、業界内の人間が正直に書いていく連載です。

「会社の出口として、M&Aもあるのかもしれないけど…」
「売却を進めたいけれど、誰に相談していいか分からない」
「仲介会社に頼んでみたけれど、本当にこのまま進めて大丈夫だろうか」

M&Aや事業譲渡を初めて検討する経営者が、知らないがゆえに損する。そんな状況を、ひとつでも減らすために、現場で見てきたリアルと対応策・ポイントを、ありのままに書いていきます。

第1回は、M&Aイノベーション代表取締役の畦田佑登(うねだ・ゆうと)にインタビューし、連載の内容とはじめる理由について、M&Aの現場で起きているリアルを交えながら話してもらった内容をまとめています。

畦田は、デロイトトーマツグループでの人事・組織開発コンサルティングを経て白潟総合研究所に参画。2020年に中小企業M&Aに特化したM&Aイノベーション株式会社を設立し、これまで30件以上のM&A成約を支援してきた人物です。

▼コンサルタント紹介
https://www.ssoken.co.jp/archives/consultant/uneda-yuto

ぜひ最後までご覧ください。

第1章|「正直M&A」、はじめます

──「正直M&A」というブログを始めようと思ったきっかけは何ですか?


冒頭のような声を、現場で何度も聞いてきたんです。「あの契約、結ばなきゃよかった」「もっと早く知っていれば」「そんな話、誰も教えてくれなかった」そういう経営者と、何度も会ってきました。

多くの経営者にとって、M&Aは一生に一度の決断です。会社を、社員を、家族の暮らしを賭けた決断。それなのに「知らないがゆえに損する」経営者が、後を絶たないんです。

そういう経営者を一人でも減らしたいと思ったのが、連載をはじめるきっかけです。

──どんな思いで、この連載をやっていきたいと考えていますか?


M&A業界には、業界内の人間にしか見えていないことが、たくさんあります。仲介会社の本音、契約の裏側、手数料の構造、現場で起きている細かな違和感などです。

それを、外に向かって、正直に開示する連載にしたいと思っています。

第2章|M&Aの現場で起きている、ひどい真実

──具体的にはどのように損をしてしまう事例があるのでしょうか?


よくあるのが仲介会社との「契約形態」です。契約は専任契約か、非専任契約か、大きく2つあります

専任契約は1社の仲介会社にだけ依頼する契約、非専任契約は複数の仲介会社に並行で依頼できる契約です。

非専任契約は、売り手にとって選択肢が多いし、頼んだ仲介会社が動かなくても他にも頼めるため安心です。

ところが「うちは非専任契約でいいですよ」と言ってくれる仲介会社は多くありません。

もちろん「専任なら情報管理を徹底でき、責任を持ってリソースを投下できる」という合理的な理由もあります。ただ、当然仲介会社として「自社の案件としてキープしておきたい」という気持ちがゼロではありません。

その結果、冒頭のように買い手づけができないまま案件が放置されてしまい、デッドロック状態になってしまうこともあるんです。

──他にはどんな事例がありますか?


例えば、手数料の話ですね。

M&Aの仲介手数料は、「レーマン方式」という計算方法が業界の標準です。取引金額に料率を掛けて算出する累進方式で、例えば取引金額が5億円までの部分は5%、5〜10億円の部分は4%、と段階的に下がっていく仕組みです。

レーマン方式そのものは、業界で広く使われている明確な制度ですが、問題は「取引金額の基準額が複数あること」なんです。

どの方式を採用しているかは、仲介会社によって違います。

詳しい基準の話はしませんが、株価1億円・負債2億円の会社の例で考えてみます。このケースだと、ある方式(株価方式)なら500万円で済むところ、別の方式(移動総資産方式)だと1,500万円の手数料になります。同じ会社のM&Aなのに、手数料に3倍の差が出るんです。

第3章|根っこにあるのは「情報の非対称性」

──これらの事例に共通する根っこは何ですか?


どれもたどっていくと「情報の非対称性」に行き着きます。

M&Aは、多くの売り手にとって一生に一度の出来事です。だから多くの経営者は、人生で初めてM&Aの当事者になります。一方、仲介会社は、毎月のようにM&Aを扱っています。

このギャップが、すべての問題の根っこなんです。

売り手は、知識が浅いまま、専門用語で語ってくる相手と契約していくことになります。「専任契約」「レーマン方式」「移動総資産」。どれも初めて聞く言葉で、意味が分からないまま、サインしてしまうんです。

──これは売り手だけの問題ですか?


いえ、買い手にとっても深刻な問題なんです。

不幸な形で売られた会社は、買った後も伸びづらいです。売り手の動機や、社内の本当の状況を理解しないまま買収すると、PMI(経営統合)の段階で必ず問題が出てきます。

理解しないまま買った会社は、PMIで失敗してしまう。これが本当に多いんです。
良い買い物だと思っていたら、前提が食い違っていて、社員が全員やめてしまったなどの話をよくききます。

情報が非対称なまま進んでしまう取引は、買い手にとっても損になりえます。

──では、本当のwin-winなM&Aには、何が必要なのでしょうか?


まずは少なくとも、売り手・買い手の双方が、最低限の知識を持っていることです。

別に、すべてを理解する必要はないんです。専門書を読み込んで、用語を全部覚えて、なんてことは現実的じゃないですよね。でも、ある程度の基本をおさえて意思決定すること、落とし穴やリスクを知っておくこと、これらが大事です。

もちろんプロの伴走も役立ちますが、丸投げではなく、自分も知っている状態で進めることが幸福なM&Aの最低条件だと思っています。

それを実現するために「正直M&A」を連載します。

第4章|業界構造の問題とは

──情報の非対称性による損は、なぜ解消されないのでしょうか。やはり悪い人がいるからですか?


誤解されたくないのですが、M&A業界に悪い人ばかりがいるわけではないんです。誠実な仲介担当者も、本当にたくさんいます。

ただ、良くも悪くもM&Aが「時流ビジネス」になっていることがポイントです。

日本では、後継者問題が社会課題になっていて、M&Aの市場は急速に拡大しています。需要が急増していて、業界全体が活況になっているんです。需要があるから、参入者もどんどん増えます。経験が浅くても、倫理観があやしくても、商売になってしまう。今は、誰でも参入できて、しかもうまみのある業界なんですよ。

だから、誠実にビジネスをやっている人もいるんですが、経験や倫理がともなわない人たちに埋もれてしまっていて、本当にいい人と出会うのが難しいんです。


──つまり、問題が起きやすい業界構造になっているということですね?


そうなんです。だからニュースになるような大きな事件は、現場のごく一部にすぎません。

「あの仲介会社が問題を起こした」と報じられるのは、よほど大きな事案だけです。ニュースにならない「ちょっとした損」「知らないがゆえの不利益」は、業界の中に無数に転がっています。

第5章|なぜ白潟総研が、「正直」を語るのか

──なぜ白潟総研/M&Aイノベーションが「正直」を語るのでしょうか?


そもそも、私たち白潟総研グループ/M&Aイノベーションは、仲介専門の会社ではなく、経営コンサルティング会社なんです。

つまり、M&Aを「仲介して終わりのビジネス」としてではなく、「経営コンサルティングの一環」として捉えているんです。

社長が幸せに経営できる手段のひとつとしてM&Aを捉えているので、経営者にすべての選択肢と正しい情報を提供して、最善を選んでもらうことを重視しています。

──イメージは分かりましたが、具体的にどう違ってくるのですか?


例えば、私たちは基本的に「非専任契約」で対応しています。売り手さんの選択肢を広げ、一番よい形でM&Aをしていただきたいからです。

そして、M&Aして終わりではなくPMI(経営統合)まで携わることも多いです。M&A後の組織の混乱、文化の衝突、人事制度の摩擦。そういうところまで踏み込んで考えていきます。買い手と売り手のシナジーが生まれ、双方にとって幸せな経営が実現するまで、数年間の時間が必要だからです。

そして、多くの仲介会社が手を出さない数千万円規模の小規模M&Aも扱っています。「ある程度の規模がないと、ビジネスにならない」という考え方ではなく、小さな会社のM&Aでも幸せな経営を実現するご支援の一つとして向き合います。


──とはいえ、白潟総研/M&Aイノベーション自身も、M&A業界の中にいることは変わりませんよね?


そうです。私たちもこの業界の中の一員です。

だから、自分たち自身も気をつけたいと思っています。業界の外にいて、安全な場所から批評するスタンスではありません。同じ業界の中で、自分たちの取り組みも含めて、正直に開示していくつもりです。

そのうえで、業界全体を良くするためには、内部の人間が正直に話す必要があると思っています。

売り手だけでなく、買い手にとっても、win-winなM&Aを増やしたい。本当にいい統合、本当にいい承継、本当にいい事業の引き継ぎを、世の中に増やしたいと思っています。

第6章|これから「正直M&A」で書いていくこと

──連載では、どんなテーマを扱っていく予定ですか?


色んなテーマを考えていますが…

ひとつは、冒頭の専任契約の話など、生々しい失敗談やストーリーです。

合わせて、落とし穴や勘違いしやすい専門用語の解説もしたいですね。ただ堅苦しい知識だけでなく、現場のリアルなシチュエーションも添えて、読み物として楽しめる連載にしたいです。

あとはM&A後、元経営者の人生はどうなるのか、というテーマも扱えればうれしいです。会社を売った後、その経営者はどう生きるのか。これは、意外と語られない領域なんです。M&Aを検討する人ほど、この「後の人生」が気になっていると思います。

──他にもM&A関連の記事や本はたくさんありますが、どう違うものにしていきたいですか?


世にあるM&Aの記事や本って、用語と知識を詰め込んだ硬いものが多いんですよ。

読むのも根気がいるし、リアリティをもって実感できない。「ふーん」で終わってしまうんです。

「正直M&A」は、そうじゃない連載にしたいと思っています。現場の生々しい話を、ときにはヒヤッと、ときにはおもしろおかしく書きたいですね。

「気軽に読んでいるうちに、いつの間にかM&Aの基本がわかっていた」
そんな連載になったら、いちばん嬉しいです。

──この連載の先で、畦田さんが目指している場所はどこですか?


「M&Aなんて、うちみたいな会社には関係ない。」

そう考えられている経営者がまだまだ多いと思うんです。

でも、実は違うんですよ。従業員数名の小さな会社でも、身近にM&Aの選択肢はあります。後継者がいなくても、廃業せずに本当に価値のある会社を残していく道があるんです。

特に、中小企業として長年経営されてきた会社は、それだけの価値を社会に提供してきたということです。それがなくなってしまうことは、地域社会にとっても日本にとっても大きな損失です。その想いと価値が失われてしまうのは、本当にもったいないことだと考えています。

M&Aという素晴らしい手法・選択肢を、中小企業にとって、もっと身近で当たり前で、そして安全に感じられる世界にしたい。

そのためにまずは「正直」に話すことから始めたいと思っています。


──最後に、読者のみなさんに何かメッセージはありますか?


重たい話ばかりになりましたが、おもしろおかしく読み流してもらえれば嬉しいです。

次回からどうぞ、お付き合いください!