真崎 興一郎の物語
小さい頃、父は私にとってのヒーローでした。
零細企業ではあるものの、会社を経営し、保険の代理店を営む父。
父こそ、私にとって初めての社長という人種との出会いでした。
優しくて、なんでも知っている。どんな質問をしても答えてくれて、子ども扱いせずに一人の人間として会話してくれる。そんな父が大好きでした。
ですが思春期になると、見え方は変わっていきます。
誠実な人柄でありながら、口下手な父の姿。優しいけど押しが弱く、ちょっと頼りなく見える態度。子どもの私には、それらが格好悪く見えたんです。
高校生のある日、一本の電話が学校にかかってきました。
「父が事故で頭を打ち、最近の記憶を失ったらしい」と。
命に別状はなく、大事にはならなかったものの、母も私も動揺を隠せませんでした。
内心心配しながら「どれくらい入院するの?」ときくと、父は「社員の生活もある。私は休めない」ときっぱりとした回答。
思えばこれが、初めて見た社長としての父の姿だったのだと思います。
家族と同じくらい、もしくはそれ以上に社員のことを思う父。正直、その覚悟と想いは当時の私に理解できたわけではありません。ただ、その衝撃的な一言は私の心に深く残りました。父のことを、社長という人種を、「わかりたい」と考えるようになったんです。
そんな思いもあり、大学では経営学を学びました。しかし、そこで語られるのは大企業や世界の有名企業の話ばかり。父のような中小企業の現実はどこにもなく、「このままでは父のことが分かるようにならないのではないか」と悩みました。
そこでたどり着いたのが、中小企業コンサルタントという仕事です。
この仕事に就きしばらくたって、”経営者の父”とも少しずつ話せるようになってきました。
そして見えてきたのは、熱い想いや考えを持ちながらも「本当にこれでいいのか」と悩み、「社員にどうやって伝えればいいのか」に苦悩する父の姿です。
そんな父と同じように悩む経営者のお役に立てればと思い、コンサルティングをしています。社長の素敵な想いを整理し、言語化し、社員や社外に伝わる形にすることで、よりよい組織づくりに貢献できれば嬉しいです。