知ることとわかることの違いを徹底解説|学びの基礎知識
学びの過程で「知る」と「わかる」の違いに悩んだことはありませんか?
この記事では、知識をただ「知る」だけでなく、深く「わかる」ことが学びをどのように変革するかを解説します。
多くの人が、「学んでいるのに成果が見えない」と感じるのは、情報を集めるだけで終わってしまうからです。
「知る」ことが情報を持っている状態であるのに対して、「わかる」ことが知識を構造化して実際の行動に活かせる状態であることを理解するだけで、日々の学びのROIは劇的に向上します。
Ⅰ. 「学んでいるのに変わらない」のはなぜか
本や記事、動画、そして社内研修。
私たちはこれまでになく「学びやすい」時代を生きています。
けれども、現場でよく聞こえてくる声はこうです。
「研修では盛り上がるんだけど、翌週には元通り」
「知識は入っても、行動が変わらない」
なぜ、人はあれほど学んでいるのに変わらないのでしょうか。
努力が足りないからでしょうか。
それとも、教え方や仕組みの問題でしょうか。
実はその背景には、「知る」と「わかる」の混同があります。
私たちはつい、「知っている=理解している」と思いがちです。
しかし、本当の意味で“わかる”とは、
単に情報を持つこととはまったく違う状態を指します。
「知る」とは、情報を手に入れること。
「わかる」とは、その情報が自分の中で意味を持ち、結びつくこと。
この二つのあいだには、目には見えない深い谷があります。
多くの人が「知っている」段階で止まり、その先にある「わかる」へと踏み込めずにいるのです。
だからこそ、研修で“良い話を聞いた”という満足感はあっても、現場での変化や成果にはつながりにくいのです。
この記事では、この「知る」と「わかる」の違いを、心理学や教育学の理論を手がかりに丁寧にひもときます。
その違いを意識して学ぶことが、人が自ら動き変化を生み出すための第一歩になることをお伝えします。
Ⅱ. 「知る」とは何か ― 情報を“持っている”状態
「知る」とは何でしょうか。
それは、外から得た情報を頭の中に取り込む行為です。
本を読んだり、人の話を聞いたり、研修で新しい知識を学んだり。
そうした瞬間、私たちは確かに“何かを知った”という感覚を得ます。
しかし、この「知る」という行為は、学びの入り口にすぎません。
心理学では、こうした状態を「浅層処理(surface processing)」と呼びます。
つまり、情報を一時的に記憶しているだけで、その意味や背景をまだ自分の中で整理できていない段階です。
「研修で聞いた内容を翌週には思い出せない」
そんな経験は誰にでもあると思います。
それは、知ったことが“理解”として定着していないからです。
「知る」は頭に情報が“入った”だけ、「わかる」は情報が頭の中で“つながった”状態。
その差が、記憶の持続と行動の変化を決定付けます。
教育心理学者ブルームが提唱した学習の分類では、最も基礎的な段階が「Remember(記憶)」です。
このレベルでは、「知識を再生できること」つまり、聞いた内容をそのまま言えることが求められます。
多くの研修や勉強は、この「Remember」の段階で止まっています。
人は“言われたことを口にできる”と、それだけで理解したと錯覚してしまうのです。
しかし、再生することと説明することは違います。
再生は記憶の再現にすぎませんが、説明は理解の再構成です。
相手にわかるように伝えるためには、情報の意味や関連を自分の中で整理し直す必要があります。
この「整理し直せる状態」こそ、次の段階「わかる」への入り口なのです。
「知る」は、学びのスタートラインです。
本当の変化を生み出すには、この先にある「わかる」へと進む必要があります。
次の章では、その「わかる」がどんな状態なのか。
そしてなぜ「知る」とは質的に異なるのかを、もう少し丁寧に見ていきます。
Ⅲ. 「わかる」とは何か―知識が“構造化”された状態
「なるほど、そういうことか」
この瞬間、私たちは“知っている”から“わかった”へと進んでいます。
「わかる」とは、新しい情報が、これまで自分の中に積み重なってきた知識や経験と結びつき、
ひとつの意味ある“構造”として整理された状態です。
それは、点だった知識が線でつながり、線が面となって、世界の見え方が変わる瞬間でもあります。
● 「シェマ」――頭の中にある“理解の地図”
心理学者ピアジェは、人が理解を深める仕組みを「シェマ(schema)」という言葉で説明しました。
シェマとは、頭の中にある“理解の地図”のようなものです。
私たちはこの地図をもとに、物事を判断し、行動しています。
たとえば、多くのビジネスパーソンは新人の頃から「顧客第一」という言葉を耳にします。
そのときの理解の地図はこうです。
「顧客第一=お客様の要望をできるだけ聞き入れること」
つまり、「顧客の満足=要望への即応」と捉えている。
この段階では、顧客の“言葉”がそのまま“真実”だと信じている状態です。
これが初期のシェマです。
● 同化と調節 ― 顧客理解の構造が書き換わる
ところが、経験を重ねていくうちに、次のような場面に出会います。
顧客の要望通りに進めたのに、結果的に「思っていたのと違う」と不満が出る。
あるいは、顧客自身が本当の課題を言語化できていない。
このとき、頭の中では次の二つの働きが起きています。
①同化(assimilation)
既存の地図「顧客第一=要望に応えること」に、
「要望どおりにやってもうまくいかないこともある」という新しい情報を当てはめる。
この段階では、既存の地図の外に何があると気付いただけで、新しい本質を見出しているわけではありません。
②調節(accommodation)
しかしさらに経験を重ね、顧客と議論を重ねるうちに、
「顧客が言っていること」と「顧客が本当に求めていること」は違う、
という理解に至ります。
この瞬間、頭の中の地図が書き換わります。
「顧客第一=要望を聞く」
→「顧客第一=顧客の“背景”や“目的”を共に探ること」
つまり、「顧客第一」という概念そのものの構造が変わるのです。
● 「わかる」とは、意味のネットワークが組み替わること
教育心理学では、こうした学びの変化を「深層処理(deep processing)」と呼びます。
情報を表面的に覚えるのではなく、
「なぜそうなのか」
「自分の経験ではどうだったか」
と考えることで知識が意味として結びつき構造化されていきます。
顧客対応の現場でこの「深層処理」が起きると、
“要望”という単語が、経営知識/マーケティングセオリー/業界理解といった他の知識とつながり、
「顧客を理解するとは何か」という意味のネットワークが再構築されていきます。
このとき、知識は孤立した情報ではなく、
「業界的な背景」→「経営層の意図」→「担当者の行動」→「自分が提供すべき価値」
といった連鎖的な構造の中で再整理される。
それが“わかる”という状態です。
● 世界の見え方が変わる瞬間
同じ「顧客の要望を聞く」という行為でも、
“知っている”だけのときは「丁寧に対応する」ことで終わります。
しかし“わかった”とき、それは「顧客と一緒に課題を発見する」行為に変わります。
つまり「わかる」とは、知識が深くなることではなく、意味が組み替わることです。
世界の見え方が変わる
それが、“知る”から“わかる”へ進むということなのです。
人は“知ったこと”ではなく、“わかったこと”しか使えません。
だからこそ、学びを「わかる」に変えることが、個人の成長にも、組織の変化にも欠かせないステップとなります。
Ⅳ. 第3章:「知る → わかる → できる」という三段階の構造
学びは「知る」「わかる」「できる」の三段階で進みます。
この違いを理解せずに混同していると、
「学んでいるのに成果が出ない」「わかっているのに行動できない」という壁にぶつかります。
● 学びの三段階

● 「知る」は入口、「わかる」は転換点、「できる」は出口
「知る」は外部情報を頭に取り込む段階。
再生はできても、使いこなすには至りません。
「わかる」は、知識が他の経験や概念と結びつき構造化される段階です。
情報が「自分の言葉」に変わり、判断や応用ができるようになります。
「できる」は、理解を行動に変え、結果を出せる状態。
ここで初めて学びが実践に転化します。
つまり、「わかっているのにできない」と感じるのは自然なことなのです。
「わかる」は思考の変化、「できる」は反復と経験による習得です。
理解はスタートラインであり、行動には時間と練習が必要です。
また、知識を増やすだけでは「できる」にはつながりません。
重要なのは、「わかる」の質=構造化の深さです。
学びを自分の経験や他の知識と関連づけられていれば、行動への移行は自然に起こります。
捕捉:「アウトプット」は“わかる”を加速させる触媒である
多くの学習法で「アウトプットが大事」と言われます。
それは、アウトプットが「知識を再構成する行為」だからです。
・人に教える
・文章にまとめる
・図にする
いずれも、頭の中の知識をもう一度並べ替え、つながりを確認する作業です。
このとき、情報が“点”から“構造”へと変化します。
それこそが「わかる」の本質です。
たとえば、人に教えるとき、
私たちは「どこから説明すれば理解しやすいか」「どういう例なら伝わるか」を考えます。
その過程で、自分でも意識していなかった前提や知識の抜けを発見する。
つまり、教えることが自分の理解を作り直す行為になっているのです。
ただし重要なのは、アウトプットは“理解の促進剤”であって“義務”ではないこと。
静かにノートを書き直したり、概念を比較整理したりするだけでも、知識は同じように構造化されます。
要は、「外に出すこと」ではなく「頭の中を再構成すること」が本質です。
その意味で、アウトプットとは外向きの行為である前に、内省的な学びのプロセスでもあるのです。
Ⅴ. 「わかる」ための学び方
「知る」と「できる」の間にある“わかる”は、偶然ではなく、意図的に設計できる。
ここでは、知識を構造化し意味としてつなぐための5つのステップを紹介します。
① 知識を“浴びる”―点を増やす
まずは、新しい情報に触れる量を増やすこと。
最初から正解を求めず、関連しそうな知識を浅く広く浴びる。
点を増やす段階では、雑多で構いません。後でつながるための“素材”を集めることが目的です。
② つなげる―既存の知識と結びつける
次に、新しく得た知識を、自分の経験や既存の知識と意識的に関連づける。
たとえば、「この考え方は前に読んだ本のあの理論に似ているな」「自分の職場ではこういう場面で使えそう」と考える。
こうした“接続”が、点を線に変えていきます。
③ 構造化する―全体の地図を描く
関連が見えてきたら、頭の中に“構造”を作る段階。
図や表を使って、「Aが起こるとBが変わる」「この理論はこの課題を説明している」と関係を整理する。
知識の位置づけが明確になるほど、応用の引き出しが増える。
構造化は、いわば「自分の理解の地図」を描く作業です。これが“わかる”の中心です。
④ 言語化する―自分の言葉にする
「説明できる」は“知る”段階ですが、「自分の言葉で説明できる」は“わかる”段階です。
他人に伝えることを意識して、定義や例え話を自分で作ってみる。
この過程で、理解の抜けや曖昧さが浮かび上がり、頭の中の構造がより明確に整います。
⑤ 内省する―「なぜそうなるのか」を問い直す
最後は、静かな時間を使って“理解を深める問い”を立てる。
「なぜ自分はそう思ったのか?」
「この考えが通用しない場面はあるか?」
「別の角度から見るとどう見えるか?」
こうした問いは、知識を多面的に照らし、意味のネットワークをさらに拡張させます。
● 「わかる」は設計できる
これらのステップは、偶然の気づきを待つものではなく、意識的に“つなぐ”ための設計プロセスです。
人は、学んだことが自分の中で“整理されて動く”瞬間に「わかる」と感じます。
それは、情報を増やすよりも“結びつきを作る”努力の結果です。
つまり、 学び方を変えれば、成果の質も意図的に変えられるのです。
時間を増やさずとも、学び方を変えるだけで理解の質は大きく変わります。
「どれだけ知ったか」ではなく、「どうつながったか」を意識する。
その積み重ねが、行動の精度や判断力の差として現れます。
Ⅵ. 「わかる」を意識するだけで、学びのROIは劇的に上がる
私たちはつい、「どれだけ多く学んだか」「どれだけ行動できたか」で学びを測りがちです。
しかし、学びの本当の価値を決めるのは、その中間にある"わかる”の質です。
● 「知る」はスタート、「できる」はゴール
「知る」は学びの入口です。
知識を増やすことで、行動の材料は手に入ります。
「できる」は出口です。
行動し、成果を生み出す段階にたどり着いた状態です。
そして、そのあいだにある「わかる」は、学びの転換点です。
ここで知識が構造化され、自分の言葉として使える形になる。
「知る」と「できる」をつなぐのは、量でも時間でもなく“理解の構造変化”と言えます。
● 「わかる」を意識するだけで、学びの投資効果が変わる
同じ研修でも、
「知識を得る場」として参加する人と、
「自分の中でつなげる場」として参加する人では、
成果に数倍の差が出ます。
前者は情報を持ち帰るだけ。
後者は、自分の経験と照らし合わせ、理解を再構成する。
結果として、行動に転換するスピードがまったく違うのです。
学びのROI(投資対効果)とは、投入した時間や費用がどれだけ行動・成果に変わるかという指標。
そしてその変換効率を決めるのは、「わかる」をどれだけ意識できるかにあります。
● 「わかる」を軸にした学び方は、組織にも波及する
「わかる」を重視する個人が増えると、組織の学習文化も変わります。
社員同士の会話が「知識の共有」から「意味の共有」に変わり、同じ情報を扱っても議論の深さが増す。
単なる勉強会ではなく、「理解をつくる場」が生まれる。
これは、組織の“学習する力(learning capability)”を高める最も効果的な方法です。
● これからの時代に問われるのは「わかり方の質」
知識の量は、AIやネットがいくらでも供給してくれます。
だれもが「知る」ことに困らない時代だからこそ、
「どう理解するか」
「どう自分の構造として使える形にするか」が問われます。
知識の量ではなく、わかり方の質で差がつく時代です。
学びの本質は、情報を増やすことではなく、世界を“見えるようにする”ことなのです。
● まとめ ― 学びの真のリターンは「わかる」に宿る
学びにおける最大の誤解は、「知識は行動すれば定着する」というものです。
行動は重要ですが、行動を持続させるのは理解の構造です。
「知る」は速い。
「できる」は見える。
しかし、「わかる」は深い。 深くわかる人ほど、少ない行動で大きな成果を生み出せます。
それは、知識が単なる情報ではなく、“自分の思考の一部”になっているのです。
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