【カンファレンス レポート】幹部育成を「偶然」から「設計」へ

2026年9月17日、白潟総研は「中小・ベンチャー企業の幹部育成の再現性」をテーマに研究報告カンファレンスを開催しました。オンライン・会場あわせて約170名(オンライン約120名・会場約50名)の経営者・取締役の方にご参加いただき、盛況のうちに幕を閉じました。
「良い幹部がいれば、会社はもっと伸ばせる」。多くの社長が実感しながらも、その幹部を“自社で・再現性をもって”育てることには、なかなか手応えを持てずにいます。白潟総研はこの1年、青山学院大学・林拓也教授との共同研究を軸に、幹部100名への個別インタビューと、経営者・幹部あわせて1,500名規模の定量調査から、幹部が育つパターンを探ってきました。本記事は、その要点をお伝えするレポートです。
目次
登壇者
- 石川 哲也(白潟総合研究所 代表取締役社長)
本研究の企画・全体設計・仮説立案を主導。国際基督教大学で組織心理学を専攻し、デロイト トーマツ グループのトーマツ・イノベーションで人材育成・組織開発に携わり、延べ1,200社以上を担当。2016年に白潟総研の創業メンバーとして参画し、採用から組織開発までを一気通貫で支援。2025年、創業者からの従業員承継で代表取締役社長に就任した。 - 井上 麻衣(白潟総合研究所 人・組織コンサルティング事業部長)
本研究では、幹部100名へのインタビューと定量調査の実施を主導。関西大学で経済学・行動心理学を学び、トーマツ・イノベーションで約90社を担当。2017年に白潟総研の創業メンバー(4人目)として参画し、リファラル採用支援や子会社の立ち上げを経て、現在は人・組織コンサルティング事業を統括する。日々経営者と向き合うなかで、「幹部育成」が最も多く挙がる悩みだと痛感してきた。 - 斉藤 充 氏(株式会社エムアールピー 取締役・次期後継者)
後半のパネルに登壇。IT分野で顧客のニーズに応じた開発を手がけるMRP(社員約30名)の取締役であり、次期後継者。研究で示された3つの段階を、自身の歩みとして語った。
▼株式会社エムアールピー
https://mrp-net.co.jp/
1. なぜいま「幹部育成」なのか
本研究の出発点にあるのは、いまの経営環境の二つの大きな流れです。その流れとは、人口縮小と、AIの台頭です。この二つが同時に進むと、仕事は「コア人材」と「非コア人材」に分かれていきます。
- 非コア人材:定型的で、置き換えの効く仕事。これからますますAIで代替できるようになります。
- コア人材:会社の方向性を決める人と、そして組織・チームをつくることができる人。ここだけはAIに代替できません。
このコア人材こそが、幹部にほかなりません。幹部が一人増えるごとに、会社が挑戦できることの幅も広がっていきます。カンファレンスでも、その重要性が次のような言葉で語られました。
「幹部の数が、その会社が実現できることの大きさを決める」
その先には、後継者の問題もあります。経営者の高齢化が進むなかで、後継者不在による事業承継型のM&Aは、今後も増える見通しです。会社に込めた思いを次世代へ残したいと考えるなら、幹部育成の到達点である「後継者育成」は、会社の生存そのものを左右します。
これほど重要でありながら、幹部育成には再現性がないと思われています。自然に任せていては、ギャンブルに近い確率でしか幹部は生まれないのです。白潟総研の創業者・白潟が最も得意としてきた領域であるからこそ、創業以来のテーマでもある幹部育成に立ち返り、この研究を始めました。
研究の進め方(4ステップ)
- ① ノウハウの棚卸し:創業者・白潟が培ってきた育成ノウハウを整理し、仮説の“的”を置く。
- ② 定性インタビュー:幹部100名に個別インタビュー(業界・業種は分散)。
- ③ 仮説づくり:経営史や人の発達を研究する青山学院大学・林拓也教授が加わり、仮説を組み立てる。
- ④ 定量調査で検証:経営者1,021名・幹部518名への調査で確かめる。
研究を通じて改めて浮かび上がったのは、「幹部が育つかどうかには、多分に運と本人の要因が絡む」ということでした。一人の幹部が生まれる背景には、いくつもの偶然が重なっています。その偶然を、できる限り“設計”に変えていく。今回は、その手がかりの共有です。
2. 発見①:幹部の成長は「3つの段階」に分かれていた
インタビューから浮かび上がったのは、幹部の成長が3つの段階を通過しているという事実でした(各段階の名称は白潟総研による暫定的なものです)。
- キャリア初期(プレイヤー期):自分自身が成果を出す時期。
- 転換期(マネジメント移行):人を通じて成果を出す側へと移る時期。
- 確立期(幹部としての自覚):社長からも本人からも「幹部だ」と認識される段階。
まず問われるのは、「自社の社員の成長を、この3つの段階で設計できているか」という視点です。

3. 発見②:各段階を越える「必要な経験」
それぞれの段階から次へ進むために、多くの幹部が共通して踏んでいた経験がありました。逆に言えば、その経験がないと、成長はそこで足踏みしてしまいます。
キャリア初期に必要なのは「圧縮負荷経験」
短期間(おおむね2〜3年)に業務量や責任が集中し、それを乗り越える経験を指す、本研究独自の言葉です。単なる長時間労働ではなく、「自分が何とかするしかない」という責任を伴う点が肝心で、大きく二つの種類があります。
- 業務負荷型:業務量そのものが一気に増える。
- 精神的負荷型:目標達成の責任や、顧客からの強いプレッシャー。
この時期に負荷を乗り越えたことが、その人の「仕事の基準」を形づくり、「やればなんとかなる」という自己効力感や、困難でも粘り続ける力(グリット)の土台になっていました。またこの経験が薄い幹部ほど伸び悩んでいる傾向が見られました。ただし、望まない人を強制的にハードに働かせるのは避けるべきで、幹部としてのキャリアを望む本人に、合意と支援のうえで渡すべき経験です。
転換期に必要なのは「マネジメントの失敗」と「持論化」
プレイヤーとして成果を出した人は、やがてマネジメントへの移行で一度大きくつまずきます。部下からの厳しいフィードバック、退職者の連続、組織の崩壊。こうした強烈な失敗を経て自分を見つめ直し、「何かを変えなければ」と作り直した人が、その後に伸びていました。プレイヤー時代の成功体験を一度解体し、人を通じて成果を出すやり方へと組み替える。これを白潟総研は「持論化」と呼びます。
興味深いのは、圧縮負荷経験がほぼ全員に共通していたのに対し、マネジメントの失敗は経験していない幹部も一定数いたことです。該当しない方の多くは学生時代やプレイヤー初期に成果を出すためにもがき、「成功のやり方は人によって違う」と早く気づいていました。つまり、この経験は「先取り」できるということでもあります。
4. 発見③:「幹部になってから」も、さらに3つの段階がある
確立期については、当初の仮説がやや甘い部分がありました。幹部としての自覚を持ったあとにも、さらに3つの段階があったのです。
- 成長途上層(幹部見習い):自覚はあるが、役割はまだ十分に果たせていない層。
- 中核幹部:任された領域で確実に成果を出し、「この領域は任せて大丈夫」と思える層。
- 経営者格:社長が一緒に経営をやりたいと思える、後継者になり得る層。
幹部は、このどこかで止まりがちです。

5. 発見④:確立期の壁を越える「希少経験」と「飛翔経験」
この確立期の各段階にも、次へ進むために必要な経験がありました。今回、最大の発見の一つです。
成長途上層から中核幹部へ:鍵は「希少経験」
社内でも一人にしか任せられない、誰にでもは渡せない経験です。研究では、これが大きく3つに整理できました。
その一つが、「採用の最終意思決定」です。面接に関わるだけでなく、その人を採るかどうかを自分で最終判断した経験を指します。インタビューでも、採用業務に関わるだけでなく、最終意思決定まで経験した幹部ほど「これが自分の成長に生きた」と語っていました。
残る2つは、ひとつは「お金」に、もうひとつは「社外」にまつわる経験です。ただし、どちらも一般に想像されるものとは少し違います。たとえば「お金」は、単に部門の損益を任せることではありませんでした。それだけでは、成長する人としない人に分かれてしまうのです。
これらを任せることは、経営者にとって腹をくくらねばできません。採用を任せれば、組織を乱す人を採ってくるリスクもある。お金の責任も同様です。ちなみに、M&Aで会社を引き受け、その経営を幹部に任せることで、この3つを同時に実現する“究極の育成機会”にしている会社もありました。希少経験を渡されていない幹部は、視座が低いままになりがちです。もし自社の幹部に「責任感が弱い」と感じるなら、その経験をデザインして渡せていない側面があるかもしれません。
▶ 残り2つの希少経験の中身と、幹部にどう渡すかは、白書で詳しく解説しています。
https://www.ssoken.co.jp/wp-executive-development-2026

中核幹部から経営者格へ:鍵は「飛翔経験」
任された領域では十分に成果を出している中核幹部を、さらに「経営パートナー」へと引き上げるのが「飛翔経験」です。自社の利害を離れ、より広い社会的な文脈のなかで物事を捉え直す、企業の枠を超える経験を指します。これを通じて、「自分は何を成したいのか」という志や人生理念が形づくられ、自己理解が深まっていきます。経営者自身の中にも、「飛翔経験をまだ十分にはしていない人がいるかもしれない」という気づきもありました。
6. もう一つの発見:同じ経験でも差がつく理由
同じ希少経験を与えられても、それを成長につなげられる人と、つなげられない人がいました。「経験を与えるだけでは足りない」。ここに、再現性の難しさがあります。共同研究の議論から浮かび上がったのが、「非認知能力」という考え方です。
- 認知能力:学力・IQ・資格のように、外から数値で測れる力。
- 非認知能力:外からは測りにくいものの、行動や成果の土台になる力。粘り続ける力、感情を整える力、人と関係を築く力などが含まれます。
学歴や偏差値は卒業後の成功とそれほど強く相関しない一方、非認知能力は社会的な成果と強く相関し、後天的に伸ばせるものもあると言われています。
なお、この部分はまだ検証途上の仮説です。定量調査で直接測定したものではなく、共同研究とインタビューから見えてきた“論点”として受け取ってください。
そのうえで研究チームは、「経験を成長につなげられるかどうか」を左右する“3つのコア非認知能力”がありそうだ、というところまでたどり着きました。
この3つが低いまま修羅場に置かれると、人は無意識のうちに経験から逃げたり、周囲を恨んだりしてしまいます。すると、どんな経験も成長に結びつきません。逆に、この土台が十分にあれば、経験の「先取り」も起こりやすくなります。
▼ 3つのコア非認知能力とは何か
その中身と、それぞれをどう伸ばすかは、白書と見逃し配信でお伝えしています。
中小企業の幹部育成実態白書2026(全70ページ超・無料予約受付中)
https://www.ssoken.co.jp/wp-executive-development-2026
カンファレンス見逃し配信(10月27日(火)昼・夜/無料)
https://www.ssoken.co.jp/archives/seminar/2060

7. 実体験に見る成長の軌跡:株式会社MRP 斉藤氏
研究で示した3つの段階を、次期後継者である斉藤氏が、自身の歩みとして語りました。

プレイヤー期:過酷な環境が「基準値」になった
斉藤氏は25歳でMRPに中途入社しました。その前は、体育会系の文化が強い、個人宅への飛び込み営業の会社にいたそうです。OJTは1〜2日で終わり、3日目からは一人で現場へ。数字が取れなければ厳しく叱られる環境でした。
「泣きながらインターホンを押した」
どうすればいいかわからず、中古書店で営業の本を買い込んで読み漁ったといいます。
「本を読んだから取れたわけではないが、読んだという自信がついて、少しずつ成果が見えてきた」
この過酷な圧縮負荷経験が、その後の“仕事の基準”になっていきました。震災を機に大阪へ異動するなかで、「もっと長期的にお客様と関わりたい」という軸が生まれ、MRPへと移ります。個人向け(BtoC)から法人向け(BtoB)へと変わり、「社内や協力会社を含め、いろんな人のイエスを取らなければ進まない」という難しさに直面しながら、視野を広げていきました。
転換期:マネジメントの壁と「採用を任される」経験
数字を出せるようになると、代表からマネージャーを任されます。「自分が数字を出せばいい」が通用しない壁に直面しました。特徴的なのは、この時期に採用を丸ごと任されていたことです。
「採用を任されるとき、代表は一切面接に出ませんでした」
自分が採った人の人生に責任を持つ。この経験が、責任感への転換につながったと振り返ります。研究でいう希少経験(採用の意思決定)を、転換期のうちから“先取り”していた形です。
確立期:「主語を会社にする」視座の転換
確立期の変化は、視座の切り替えでした。学びを通じて自分の「承認欲求の高さ」に気づき、「自分がどう評価されるか」から「会社にとって何が最善か」へと切り替えていったのです。自己保身や嫌われることへの恐れを手放し、組織のために必要な厳しい判断も下せるようになりました。同時に、経営者コミュニティなど“自社の外”へ意図的に飛び込み、人間力を磨き続けています。いまは、自分でやったほうが早くても口を出さず、相手に考えさせて最後まで責任を持たせる「任せきるマネジメント」に挑戦しているところです。
研究で描いた各段階の“必要な経験”が、一人の物語のなかで確かに機能している。そのことがよく伝わるディスカッションでした。石川・井上が斉藤氏の経験を掘り下げた当日のやりとりは、見逃し配信でそのままご覧いただけます。
8. 幹部育成の再現性を高める「3つのキモ」
再現性を高めるための3つの方法が示されました。

① 経験のデザイン
誰に、いつ、何の経験を渡すのかを、意図的に設計することです。目先の売上やリスクの小ささだけで判断せず、「成長のために、この経験を誰に渡すか」を考える。これは、GE(ゼネラル・エレクトリック)などで知られる「リーダーシップ・パイプライン」(各階層で必要な経験を計画的に積ませ、途切れなくリーダーを輩出する仕組み)とも重なる考え方で、今回の調査は、その確かさを改めて裏づける形になりました。プレイヤー期から転換期にかけては、友人・知人に声をかけて自社へ迎える「リファラル採用」の経験なども効果的です。
② 内省の支援
経験を成長に変えるには、その意味を本人が言葉にする「内省」が欠かせません。そして、その質を大きく左右するのが「言語化力」です。
言語化は技術であり、後天的に習得できます。だからこそ、本人の言語化を指導したうえで、社長や幹部との対話(内部コーチ)や、外部コーチとの壁打ちを組み込むことが有効です。さらに、「まとまった休暇のデザイン」も挙げられました。忙しい現場から離れないと、内省の時間は取りにくいからです。その一例として紹介されたのが、井上自身の産休期間でした。
「産休中に育児で忙しくしながらも仕事から離れるなかで、井上はとても深く内省し、言語化していた。幹部としてパンと弾けた瞬間だった。」
復帰にあたっては、本人の希望も踏まえ、しばらく重要なポストから外して“慣らし”の期間を設けたといいます。内省の支援とは、こうした環境の設計まで含むのです。
③ コア非認知能力への着目
先に触れた、3つのコア非認知能力です。外からは測りにくく、白潟総研としても、まだ診断の形で提供できる段階にはありません。だからこそ、「まずは経営者自身が、この3つの視点で幹部を見てほしい」という呼びかけがありました。「いま圧縮負荷経験を渡して、この人は乗り越えられるだけの土台があるだろうか」。なんとなくの勘ではなく、3つに分解して見る。それだけでも、経験を渡すタイミングの精度は上がります。
9. 幹部は「偶然」ではなく「設計」で育つ
今回の研究が示したのは、シンプルな結論です。幹部が育つかどうかは、確かに運や本人の要因にも左右される。しかし、成長した幹部の経験をていねいに見ていくと、そこには一定の構造があります。コア非認知能力という土台を育てながら、段階に応じた経験を意図的にデザインして渡していく。そうすることで、これまで“偶然”に委ねられてきた幹部育成を、少しずつ“設計”へと近づけていくことができます。
「幹部の数は、その会社が実現できることの大きさに直結する」。この一歩は、会社の未来を左右する経営そのものだと言えるでしょう。

さらに詳しく知りたい方へ
本記事でお伝えしたのは、研究の入り口です。「自社の幹部に、次に何を渡せばいいか」まで落とし込むための材料を、2つご用意しています。
① 中小企業の幹部育成実態白書2026(無料・10月完成予定)
全70ページ超の白書では、本記事で触れていない「実際にどう育てるか」まで踏み込んでいます。
- 3つのコア非認知能力の中身と、それを伸ばすための具体的な経路
- 確立期の壁を越える、希少経験の全体像
- 段階が上がるごとに深まる、非認知能力のレベル
- 100名のインタビューから選んだ、複数の幹部の成長物語
- 企業・支援機関・行政への提言
自社の幹部を「どの段階の、どの経験の手前で止まっているのか」で捉え直し、次の一手を設計するための材料になるはずです。いまご予約いただくと、完成次第メールでお届けします。
▼ 白書を無料で予約する
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- 日時:2026年10月27日(火) ①昼 12:00〜14:00 / ②夜 18:00〜20:00
- 形式:Zoomウェビナー(カメラ・マイクはオフで参加できます)
- 参加費:無料(各回 先着100名)
- 対象:経営者・経営幹部(※同業の方はご遠慮ください)
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